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マンションまでの10分間、道行く人の視線が私に注がれているように感じる。
怖い。怖い…
人とすれ違うたび、震える身体を腕に抱きしめ、逃げるように走る。
見慣れた部屋に入り、鍵を閉めた途端。涙で視界が歪んだ。
英司、英司…
私の居場所は何処にもない。
もう嫌だ、消えてしまいたい…
濡れた髪、泥が跳ねているコート、切り裂かれた下着。身に纏っているものを全て脱ぎ去り、お風呂場へと駆け込んだ。
縛られていた両腕は痣になっていた。
身体中を弄る男の手が、脳内にフラッシュバックする。
「嫌ぁ…」
男に触られた感覚を消そうと、肌が赤くなるまでスポンジで擦り続けた。何度うがいを繰り返しても、口の中のどろどろとしたものが消えない。
汚れた私には、英司も、何も残ってはいない。
剃刀を手に取り、刃先を躊躇いもなく手首へと押し当てた。
英司、最後にもう一度、名前を呼んでほしかった…
つぅ、と白い肌に血が滲み、流れた。
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