新種

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「確か君は、船舶免許を持っていたよな?」  姿を現した乾晴彦は挨拶もそこそこにそう切り出した。 「なんだよ、いきなり」  眉根を寄せる私の向かいの席に腰掛けた彼は、「まあこれを見てくれ」とスマートフォンの画面をこちらに向けた。  ネコだ。それも画面の至る所に数え切れないほど写っている。薄暮の中で撮られたものらしく、無数の目はフラッシュを受けて輝いて見えた。  またかよと私は内心呆れ果てた。大学教授を生業とする友人は無類のネコ好きだ。それが高じて生物学の博士課程を修めたといっても過言ではない。学内でも有名らしく、学生からネコの画像や動画が頻繁に送られてくるようだ。それを会うたび披露してくれる。犬派の私にとって、それは上司の子供の運動会のビデオを無理やり見せられているような気分になる。  辟易する私に気づくことなく、彼は鼻息荒く話を続ける。 「これさ、うちの学生のSNSで拾った画像なんだ。猫島だって。そこに連れて行ってほしんだ。君に」 「どうして私が。船ぐらい出てるだろう」 「いや、それがさ……」と晴彦は画面のネコをみつめながら、 「SNSに書き込まれた情報によると、この島は無人島で、和歌山県の加太ってところにあるそうなんだけどね、地元では、なんでもこの島に入ると祟りがあるとかで、誰も近寄ろうとはしないらしいんだ。だから船も出ていない」 「じゃあ諦めろよ。そこじゃなくても猫島と呼ばれるものなら他にもあるだろ」 「それがそうはいかないんだ。ここを見てみろ」  友人は再びスマートフォンの画面をこちらに向けると、画像を拡大させた。  どうせまたネコだろう……と、眺めるうちにあることに気づいた。画面の端に、ありふれたネコに混じって見慣れぬものが映っていたのだ。大きさは標準よりもひと回り大きいくらい。顔は明らかにネコのものなのだが、その毛色が異彩を放っていた。最初はグレーやサバトラが光の加減でそう見えるのかと思っていたがそうではない。銀色に輝いているのだ。
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