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「これ、なんだよ?」
「なんだと思う?」
「知らないよ。この写真を撮った学生の話は?」
「それがさ、連絡がつかないんだよね。ダイレクトメッセージを出してはいるんだけど」
「ほんとうにネコなのか?これ」
私の疑問に彼は「もちろんそうだろう」と自信満々に言ってから、
「僕はね、きっとこれは新種のネコじゃないかと思うんだ。それをこの目で見たいんだよ。そしてあわよくば、このネコの第一発見者として、僕の名前を冠したいんだ」
確かに、ネコの学名に自分の名が刻まれるとなれば、ネコ好きとしては最高の誉れだろう。しかし私にはどうでもいいことだった。そもそも、この画像にしても加工されている可能性だってあるのだ。学生のいたずらとも考えられる。
「悪いが私には興味のないことだ。わざわざ和歌山まで行く気にはなれないよ」
「そんなこと言わずにさ。向こうは海の幸が旨いらしいよ。温泉もあるしパンダだっている。ほら、高野山だって和歌山だ。ついでに観光すればいいじゃないか。もちろん、費用は全て僕が負担するからさ。頼む。君だけが頼りなんだ」
晴彦は頭を下げた。自然と旋毛が目に留まる。最近薄くなったと気にしていたにも係わらずそんな姿をさらすとは、余程あのネコにご執心らしい。それにしたって気は進まないが、一つ貸しを作っておくのも悪くないかもしれない。彼の言うとおり、観光気分で行くのもいいだろう。おまけに只ときている。
「しょうがない。行ってやるよ」
私の返事に、顔を上げた彼は喜色満面の笑みを浮かべた。
加太は和歌山県の北部に位置する港町だ。初見の人は『かた』と発音することが多いが、正確には『かだ』と読む。太平洋戦争中には砲台や弾薬庫が設置され、その遺構は今では某アニメの舞台に似ているとかで人気があるらしい。
晴彦と私はまず地元の漁師に話を聞いた。やはり祟りという言葉が出てきた。止めておけと警告をくれたが、学者肌の友人は意に介しない。
プレジャーボートを借りて出港したのが正午過ぎだった。それから20分ほどで目的の島は見えてきた。無人島と聞いていたがちらほらと建物の屋根が見える。過去には人が住んでいたようだ。
海岸線には桟橋もあった。そこには一艘の小型の船が停泊していた。それと並ぶように船を着けて上陸する。
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