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「先客がいるようだな」
隣の船を覗き込むようにしながら桟橋を歩いていく。中には誰もいないようだ。
「ぼやぼやしてられないぞ。僕と同じことを考えた輩がいてもおかしくないからな」
意気盛んに足を速めた晴彦の後を慌てて追いかけるうち、彼が急に足を止めた。ちょうど桟橋から砂浜に差し掛かろうというところだ。
「どうした?」
訊ねる私に「あれ」と指差してから、彼はそちらに進んでいく。その先に何かが落ちていた。それを拾って戻ってくる。
「スマートフォンじゃないか。誰のだ?」
「そんなこと僕が知るわけないだろう。ただ、幸いロックはかかっていないから、立ち上げることは出来るな」
言いながら画面の上で指を動かし始める。
「おいおい、勝手にそんなことするもんじゃないぞ」
「かまうものか。落とし主を確かめるためじゃないか」
やがて「ん?」と指を止めた彼は、スマートフォンをこちらに向けた。
そこには見覚えのある画像が映し出されていた。この島に来るきっかけになった写真。先日友人が私に見せた、あのネコだ。
「これって、もしかして……」
「そのようだな。偶然にもあの学生のもののようだ。こんなところに落としていたとは。連絡がつかないわけだ。本土に帰ってから警察に届けてやることにしよう」
それをポケットに納めた友人は、「さて」と前方に視線を向ける。
「急ごう。ライバルに先を越される前に、あいつを見つけるぞ」
とりあえず海岸線を一周することになった。元の位置に戻ってくるまで2時間半もかかってしまった。しかしその間、一匹のネコも見かけなかった。
「おい、どうなってるんだ?骨折り損だ」
桟橋に座り込んだ私を見下ろす晴彦は、全く疲れた素振りも見せずに笑顔で応じる。
「ここは無人島だぞ。恐らく、人間という見慣れない動物を見て警戒しているんだろう。今頃きっとどこかに隠れて、こっちの様子を伺っているはずだ」
「隠れてるって、写真には山ほど写ってたじゃないか。警戒してるようには思えないけど」
「君は知らないのか?ネコってのはね、日中はあまり動き回らないものなんだ。夕暮れ時と朝方の、薄明かりの時間帯が一番活動的になる。あの写真もそうだっただろ?」
言われて見ればそうだ。フラッシュの焚かれた画像は完全な夜ではなく、薄暮の中で撮られていた。
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