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「それならまあいいんだけどさ。でも、少しおかしいとおもわないか?」
「なにが?」
「人と会わないじゃないか。声すら聞こえない。あの船の連中はどこにいるんだ?」
ちらと桟橋を振り返る俺に、友人は「そこだよ」と声を潜める。
「きっとあいつらはネコを捕まえる気なんだ。例の新種をね。だから音も立てず、どこかで罠でも張ってるに……」
そこで彼は急に落ち着きをなくし、
「そうだよ。そうに違いない。よし、こんなところでぐずずぐしてはいられない。行くぞ」
「行くってどこへ」
「ネコが潜んでいそうな場所だよ。ほら。海から屋根が見えたじゃないか。そこへ行くんだ」
かつては鮮やかなレンガ色だったであろうその建物は、今では至る所苔むし、土埃が積もり、時の流れを感じさせた。入り口や窓の戸板はとうの昔に朽ち果て、内部にまでつる草が侵入している。
「ここももしかしたら旧日本軍の施設だったのかもしれないな」
言いながら一歩足を踏み入れた。ガランとして何もない。
「うん。このあたりの島には砲台跡や弾薬庫があるらしいから、ここも倉庫のようなものだろう」
一通り見渡してからに外に出た。10メートルほど離れたところにもう一棟建物があった。そこに向かおうとしたところで、「ちょっと待て」と晴彦がしゃがみこんだ。見ると足元の土がこんもりと盛り上がっている。
「なんだよ、それ」
問いかけると、彼は落ちていた小枝を拾い、それで土を掻き分け始めた。それと共に異臭が鼻をつく。
「おい、まさか……」
「そう。ネコは自分の糞をこうしてきっちり埋めるんだよね」
言う間に黒い棒状の物体が姿を現した。
「そんなもの掘り返してどうするんだよ」
「もちろん調べるのさ」
彼が背中から下ろしたデイパックの中からボックスティッシュほどの金属の箱が現れた。上面にモノクロの液晶画面と、いくつかのボタンが並んでいる。その一つを押すと、側面から小さな引き出し状のトレイが飛び出した。
「これはね、うちの大学の工学部と某医療機器メーカーが共同研究中の代物なんだ」
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