新種

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「そんなもの、こんなところに持ち出してもいいのか?」 「実験に協力するといったら喜んで貸し出してくれたよ」  可愛くないウィンクを見せてからもう一度デイパックに手を突っ込んだ。取り出したのは綿棒とシャーレ状の小さな皿。それらを使って糞を掬い取り、件の装置のトレイに乗せた。手動でそれを閉じると、金属の箱は小刻みに震えだした。 「で、何を調べるんだ?」  友人の動作が止まったところを見計らって訊ねた。 「DNAさ」 「DNA?こんな機械でか?」 「そう。こいつは持ち運びができるDNA分析装置なんだ。主に犯罪現場で早急にDNA検査が出来るようにするのが目的で開発されているのだが、いずれはもっと小型化して、一般人でも手軽に使えるようにするのが最終目標だそうだ」 「一般人って、自分の子供が誰の子かを調べるためか?」 「それもあるけど、例えば、食品だ。今は原産地にこだわる人が多いだろ?ところが表示と内容物が異なることが少なくない。そんな時、これを使えば安心ってわけだ」 「はぁ……。なるほどね」  唸りを上げる装置を感服の思いで見つめながら、 「しかし、糞なんかからDNAが分かるのか?」 「問題はそこだ。運よく……って糞だから駄洒落で言ってるんじゃないぞ」とくそ真面目な表情を作りつつ 「運よく大腸壁の細胞が糞に付着していれば、この糞の持ち主のDNAが分かるし、仮にそれが分からなくても、糞に残った残骸から、どんなものをエサにしているのかが分かるんだ。何を食べているのかが分かれば、その生息域も絞り込める。つまり、発見もしやすくなるということさ」  晴彦が話し終えると同時に装置の振動も止まった。 「おっ。結果が出たらしいぞ。ちょっと待ってくれ」  次に彼が取り出したのは衛星電話だった。番号を入力し耳に当てる。 「ああ、乾だ。DNAデータを抽出できたから、今からそちらに送るよ。照合を頼む。特に、ネコを中心にね。よろしく」  一旦通話を切ってから、装置と電話機をコードでつなぎ、再び番号を入力した彼は、 「今後の課題はこれだな。今はこうして大学内のデータベースを利用しなけりゃならないが、いずれインターネットを利用するなりして誰でもどこからでも照合できるようにするべきだ」  
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