新種

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 送信が終わったのか、手早く一連の装置をデイパックに納めると、 「さて、照合にはまだ時間がかかるだろうから、その間に次の建物を見てみよう」  外観は先ほどの建物と変わりなかったが、その中は打って変わって物で溢れていた。壁際にぎっしりと並んだガラス棚。十数基の作業机の上にはクスリ瓶や古びた機材が散乱し、風に飛ばされたのか色あせた書類の類は床の至る所に撒き散らされていた。  それらを避けるようにして歩みを進めていく。 「なんだろう。病院だったのかな?こここは」  指先で空のクスリ瓶を小突きながら言うと、晴彦は演技めいた仰々しい表情で口を開く。 「いいや。もしかしたら何かの研究施設かもしれないぞ。ほら、731部隊のような」 「ああ。生物兵器の開発をしていたって言う、旧日本陸軍のあれか」 「うん。あれは満州にあったけど、実は国内にも拠点があったりしてね」 「おいおい。まさかそんなヤバイ兵器の残骸はないだろうな」  不安を覚え、あたりに目を走らせていると、彼は「ハッ」と鼻で笑った。 「心配いらんだろう。万が一そんな危険な研究をしていたところなら、終戦直後に完全に焼き払われているはずだ」  と言うものの、やはり気になって仕方ない。出来るだけ物には手を触れないようにしながら出入り口へと足を向ける。 「先に出るぞ」  振り返り声をかけると、友人は散乱した書類の一枚に真剣な眼差しを落としていた。 「どうした?」 「いや、この絵……」  そのとき彼のデイパックの中から電子音が聞こえた。衛星電話の着信音だ。彼は言いかけた言葉を飲み込み、電話に出た。 「ああ、僕だ。なんだ。もう結果が……」  彼が何を言おうとしていたのか気になる。いったい絵とはなんのことなのだ。 晴彦が会話をしているすきに、私はそちらに歩み寄った。床に目を落とし、彼がどの書類を見ていたのか探す。  と……、精巧なネコの挿絵が目に付いた。それはあの写真にあった、例の新種ではないかというネコの姿と酷似していた。  思わずしゃがみこみ、紙を掴み取る。そこにはこんな一文があった。
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