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『……我ワレハ、新種ノ猫ヲ造リ出セリ。是ハ、人ヲ襲ヒ、人ノ肉ヲ好ンデ食ス獣ナリ。是ヲ繁殖サセ、敵基地ニ解キ放テバ、敵兵ヲ速ヤカニ抹殺セシム……』
は?人を襲う?食す?なんだよ。これも生物兵器なのか……。
「おい」と肩を叩かれビクリと立ち上がる。
晴彦は蒼白な顔でこちらを見ていた。
「すぐに帰るぞ」
「いやその前に、お前が見てたのはこの書類か?なんかとんでもないことが書いてあるぞ」
私が指差すと、彼は再び足元の書類に目を落とした。しゃがみこみ、例の文章を読むうちに、ばね仕掛けが弾けたかのように勢いよく立ち上がった。
「帰るぞ」
彼は強引に私の手を引いて、建物の外に飛び出した。いつの間にか太陽は西に傾き、あたりはオレンジ色に染まり始めている。
「おい待てよ。なんだよ」
手を振りほどき足を止めると、彼は切羽詰った顔で口を開いた。
「君も読んだだろう。あの書類を」
「読んだよ」
「だからそういうことだ」
「そういうことって……」
まさか?と思っていると、それが伝わったのか晴彦はコクリと肯いた。
「照合結果が出たんだ。糞の主は新種のネコだ」
よかったじゃないかと思わず口から出そうになったが、それよりも先に先ほど読んだ一文が脳裏に甦った。
「そして……」と彼は話を続ける。
「糞から出た食べかすのDNAは、人間のものと一致した」
知らず知らずに足が動き出していた。
二人とも無言のまま、ただひたすら来た道を戻る。徐々に足早になり、最後には駆け足になった。
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