1. ユキノヒ

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部屋に響き渡る目覚まし時計の音。 ごそごそと布団から伸びて出てくる手を、 罠に掛かった子うさぎのごとく、 むき出しの爪が押さえつける。 「痛っ!」 すぐさま、引っ込めるも、 そのむき出しの爪は、獲物を逃すものかと 布団の中にまで食らいついてくる。 「痛い痛い痛い??」 飛び起きると、むき出しの爪の持ち主は、 目覚まし時計を蹴り飛ばして ひらりと身をかわし、 何食わぬ顔で、顔を洗いはじめる。 「ユキちゃん、ひどいよ。 ほら、見てよコレ!」 私は、腕の赤く腫れ上がった爪あとを 見せつけた。 顔を上げたユキちゃんは、 一瞬だけ動きを止めたけど 目を閉じたまま、 また、顔を洗いはじめた。 「寒っ!」 毛布を引っ張りだして、頭から被った。 カーテンを開けると、 7階から見える外は真っ白。 「ゲッ。雪?やばっ! 電車、遅れてないかな?」 慌てて、テレビをつけた。 朝の情報番組は、最近、近所で起こっている 連続強盗殺人事件で持ちきりだ。 会社帰りのOLばかり 狙われているようで、 私も人ごとではないのだ。 でも、今は何よりも、雪。 雪の情報が知りたい。 スマートフォンで検索してみる。 「うわーやばいな。 早く出なきゃ!」 バタバタと準備をして スマートフォン片手に、 いざ、出ようとしたとき、 威圧感のある視線を感じて ハッと振り返った。 目ヂカラ全開のユキちゃんが 微動だにせず座っている。 「ああーごめんごめん。 ユキちゃんのご飯入れるの、 忘れてたー!」 バタバタと、キッチンに戻り、 スマートフォンを置いて、 ユキちゃんのお茶わんに レトルトの猫エサを入れた。 ユキちゃんの目は、 静かに閉じられ、 颯爽と歩いてきて、 ペチャペチャと 食べはじめた。 「ユキちゃん、じゃあ、 行ってくるね!」 私は、再び玄関に向かった。 ドアをバタンと閉めて、 鍵をかけた。 キーホルダーの鈴が、 チリチリと 騒がしく鳴った。 エレベーターの前で、 スマートフォンを忘れたことに 気がついた。 あたふたと戻り、 騒がしく鈴を鳴らせながら鍵を開け、 キッチンに置き忘れていた スマートフォンを手に取った。 「じゃあねっ!ユキちゃん!」 ユキちゃんは、珍しく 目を見開いて私を見上げた。 「どうしたの?ユキちゃん?」 私は、ユキちゃんの横にしゃがみ、 頭をそっと撫でた。
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