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駅に向かう道路は、
辺りもみんな真っ白だった。
息までも凍えそうに白い。
まるでちょうど一年前の
あの日のようだ。
ユキちゃんを道路の
片隅で見つけた。
うずくまっていたユキちゃんの体に
ユキちゃんと同じくらいの量の
雪が積もってた。
死んでるのかと思った。
バッと目を見開いてくれなかったら
きっと、通り過ぎていたかも知れない。
ユキちゃんは、何故か普段は、
たいてい、目を閉じたままだ。
目が悪いのかと思ったけれど、
獣医さんは、特に悪いところは無いって
言っていたし。
ユキちゃんが、目を開くのは、
ご飯の催促の時とか、
私に何か伝えたいときと、
猫じゃらしで遊ぶ時だけ。
後は、寝てるんだか、起きているんだか。
変な猫だ。
変と言えば、名前もそうだけど。
ユキちゃんだけど、男の子だったし。
…白くないし。
ユキちゃんの上に積もってた雪が
あまりにも、
そう、あまりにも
多かったからだ。
ちょうど、あの時の
私の、
肩の荷のように。
田舎から都会に出てきて
こんな人混みにもようやく慣れてきたけど。
人にぶつかったりすることにも。
痛っ!
今日の駅は、いつもより
混雑してる。
いつもより、人にぶつかる。
電車は、徐行運転な のに、
人波はあっちへこっちへと
みんな急ぎ足だ。
この荒波にも耐えてきた。
朝起きて仕事に行って、
帰って寝る。
その繰り返し。
たまの休みに、
出かけることもない。
買い物にも滅多に行かない。
あ、そういえば。
この間、買ったスカート、
昨日、脱いで、
どこに置いたっけ?
あれ?
クローゼットにしまったか?
いや、ソファに置いたーー?
ユキちゃんの敷布団にされたら…。
うわー!毛まみれだし、
爪とぎとかされたら最悪だし、
いやいやいやいや
まいったー!
やっちまったー!
帰るか?
ここからならまだ引き帰しても…?
いや、絶対に遅刻だよ~。
いや、待てよ?今日なら、
雪のせいにできるか?
いや、ダメだ。
ユキちゃんを信じよう。
きっと、大丈夫。
大丈夫、
じゃないなー。
きっと、コレだ。
ユキちゃんが私に
伝えようとしたこと。
ああ。
諦めよう。
あのスカートのことは、
もう
諦めよう。
ユキちゃんの毛。
ユキちゃんの毛は、
まるでガラスの破片のように
キラキラしてて
そして、刺さる。
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