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「こらこら、ユキちゃん、ダメだよ。」
私が脱ぎ捨てた服の上で寝ていた
ユキちゃんをふわりと抱き上げた。
私のお気に入りのセーターには
ユキちゃんの毛が、びっしり付いていて。
取るのが面倒で、放っておいた。
それから、忘れた頃に
そのセーターを着て
飛び上がった。
まるで、ガラスの破片が
繊維に絡みついて
結晶みたいになってて
とにかく
身体中に刺さるようで。
慌てて脱いで見ると、
キラキラと光りながら
ユキちゃんの毛は、
綿毛のようにふわふわ飛んで
そして、消えた。
ああ、こんな風に
私に刺さった
いろいろな言葉や
視線とかも
キラキラ光りながら
消えて行けばいいのにな。
なんて思った。
ユキちゃんみたいに
見たいものだけ見て
余計なことは言わずに
生きていけたら
少しは楽だったかもしれない。
世の中には
たぶん、
見たくないものが多すぎるんだ。
ユキちゃん、
そうなんだよね?
ユキちゃんの毛は
何度も付くと、
少しだけ残って
なかなか取れなくなった。
私は、
洋服を脱ぎ捨てることに
気をつけるようになった。
特に、お気に入りは。
そうして少しずつだけど
私は、
掃除や洗濯が
好きになっていった。
コロコロを買ったり
少し高い掃除機を買ったり
柔軟剤に凝ってみたり、
すると、それだけで
何だか、テンションが上がったりして。
楽しくなって。
猫じゃらしを買ってみた。
ユキちゃんは、
私もびっくりするくらいに
目を見開いて、
猛スピードで、猫パンチ連打炸裂。
猫じゃらしは、
一瞬で、見るも無惨な姿となった。
恐るべし、
ユキちゃんの 手。
気のせいかな。
高速すぎたのかな。
ユキちゃんの手が
千手観音みたいに見えた。
あんな風に
敵に立ち向かえたら。
せめてあともう少しだけ
自分が強ければ
守ってあげられたかもしれない人が
いたかもしれないな。
見てみないふりばかりじゃ
ダメなんだ。
いざという時、
闘える自分でありたいな。
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