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「え?」
私の表情で察してくれたのか、
「あ、いや、すみません。
どうぞ、行ってください。」
と言った男の人は、
早く行けと言いたげに、
手で促した。
何だろう、この気持ち。
私の中に小さな罪悪感が生まれた。
一応、ぺこりと頭を下げて、
前に歩き始めた。
歩いても歩いても
後ろから来る男の人が
気になって仕方がない。
でも、同じ方向なんだから。
と、自分に言い聞かせた。
できることなら、
途中でコンビニでも寄って
自分が後ろになりたかったけれど
無くて諦めた。
怖い。
マンションの前まで来て、
私は、何気なく後ろを振り返ってみた。
いない。
良かった。
さすがにマンションは同じじゃないだろう。
ホッとしながらエレベーターに乗った。
ユキちゃん、待ってるだろうな。
早くお風呂に入りたい。
足もくたくた。
冷え切って痛いくらいだ。
カバンの中に手を入れて鍵を探った。
アレ?
無い。
ポケットにも無い。
ええ??何で??
だって、あの鍵には鈴もついてなかったし、
ええ?
マジ??
鍵を落としたときに、鈴が取れたってこと?
ウソだ!
どうしようー??
頭がパニックだ。
さっきの男の人を探した方がいい?
それとも業者?
不動産屋?
あーどうしたらいいの?
玄関の前まで来て、
再びパニックになる。エレベーターに戻ると、
もう一階にまで下がって行って
しまっていた。
どうしよう。
とにかく、落ち着こう。
カバンの中をもう一度、探してみる。
やっぱり、無い。
スマートフォンを取り出して
みたけれど、、。
こんなときに、
連絡できる友達もいない。
世界中で1人ぼっちになったような
気になった。
ドアに背中を付けてうなだれていると
騒がしい鈴の音が
中から聞こえてくる。
アレ?
鍵?
チン!とエレベーターが
たどり着いた音が聞こえた。
誰か来る。
こんなとこで立っているのを
見られたくない。
ガチャっとドアノブを回すと
普通に開いた。
背後に人の気配を感じながら
「ユキちゃん?ただいまー」
と、大声で言いながら
取り敢えず、入るなり鍵を閉めた。
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