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「おはようございます先輩っ!」
朝恒例の挨拶は背後から聞こえて反射的に振り返る。
そこには艶やかなセミロングの黒髪を揺らし太陽の明るさに負けない愛嬌ある笑顔で見つめてくる小柄な少女が立つ。
先輩……そう言うからには同じ学園に通う新しい後輩に少年は挨拶を返す。
「あぁ、おはよう。今日も朝から元気なんだな」
「当然ですとも!島暮らしだった私にとって大都会で送る新たな学園での青春ライフ……私、天河 海凛さんは夢であったこの新生活を満喫したいんですよ!」
鬼気迫る、そんな雰囲気で天河 海凛は大袈裟にも力説する。
しかし島暮らしという若干 十四歳の少女からすれば大都会の空気は新鮮でまた新たな一味を楽しめると言う気持ちは分からなくもない。
東京都、百に並ぶ学校数の中でも少数である中高一貫の学び場“空羽宮学園”は特に目立ちもしない普通な学校だがそれなりに盛んなのも確かだ。
運動部は本格的で全国大会出場経験のある部活動もあれば合唱部も都内コンクールでは金賞を受賞した成績がある。
イベントである学園祭は毎年恒例の行事で派手めでやり過ぎな部分もあるが不思議な程に好評で他県から訪れる人も少なからずいる。
中等部三学年に編入されたばかりの海凛はこの学園での青春ライフとやらが本当に楽しみな様子で早朝からかなりのハイテンション気味だ。
「やっぱり甘酸っぱい恋の香りとか漂っちゃうんですかね!?放課後には校舎裏で二人きりの空間で愛の告白とかあっちゃうんですかね……!」
「そんな話は聞いた事ないぞ?だいたい恋に香りとかあるとは思わないし放課後は教師や風紀委員の見回りもあるだろうから校舎裏で告白は難しいんじゃないか?」
先輩としての経験から想像による答えを告げれば少女は不機嫌にも?を膨らませる。
「……先輩は故意に女の子の夢を壊そうとしているんですか?いや、してるんですよね?」
「そんな訳ないだろ。俺は単に現実的にそれは難しいといいたいだけで悪気があって言ってるんじゃー」
「そうじゃありません。例え悪気があろうとなかろうと夢抱く女子の領域に踏み入れて荒らしたんです。それは無粋ですよ先輩」
これではまるでお説教を受けている様子だ。
上下関係では上に値する筈の男子生徒、碓氷 拓也は今まさに後輩からの威圧に押されかけている。
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