7人が本棚に入れています
本棚に追加
小鳥の囀ずりと眩い朝日が、涼の覚醒を誘う。
夢か現か判断つかぬ事象が起きたことは覚えているが、ほとんど夢であったのではと思える。
「おはようございます、リョウ」
しかし、現実であると証明された。
凛とした声は、自身の枕元から発せられていた。
「おはよう、エリミラ。やっぱり現実だったんだな」
「はい。私はこの通り、存在しています」
昨夜と変わらない鎧姿で正座をしている彼女は美しく、思わず涼は見惚れていた。
「……私の顔に、何かついていますか?」
「あ、いや、あー、本当に何かついてるし」
エリミラの左頬に、赤黒いものが僅かに付着していた。
乾いた血液であるように見える。
「失礼、返り血が落ちていなかったようです。お手洗いをお借りします」
彼女は静かに立ち上がり、トイレへと向かっていった。
寝惚けた頭で昨夜の記憶を思い返すと、窓が割れたことと死体が転がっている事に気が付いた。
「ま、まさかあのままじゃ……」
布団を跳ね飛ばし、確認に向かう。
しかしそこには、血痕はおろかガラス片すらもなかった。
割れたままの窓だけが、昨夜の記憶と一致する。
「彼らは、死ぬと何もせずとも消えてしまうのです。飛び散ったガラスは、明け方に私が掃除しておきました」
いつの間にか背後に立っていたエリミラが、そう答える。
「君が掃除してくれたのか?」
「ええ。あのままにしておくのは危険ですので」
「メイドみたいだな。でも、ありがとう」
涼の言葉にはエリミラは少しだけ笑みを浮かべたように見えた。
しかしすぐに、元の固い表情に戻る。
「リョウ、今日はこの街の地理を把握したいと思います。深夜に探索しましたが、私だけでは理解が及びません」
「え、その格好で?」
「はい。何か問題ですか?」
今朝は警察に起こされていなくてよかったと、涼は安堵した。
「……案内するけど、その前にちょっと会議な」
常識の異なる世界を生きていた吸血鬼に、涼は朝から心労を抱えることとなった。
最初のコメントを投稿しよう!