2章 野蛮刃

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小鳥の囀ずりと眩い朝日が、涼の覚醒を誘う。 夢か現か判断つかぬ事象が起きたことは覚えているが、ほとんど夢であったのではと思える。 「おはようございます、リョウ」 しかし、現実であると証明された。 凛とした声は、自身の枕元から発せられていた。 「おはよう、エリミラ。やっぱり現実だったんだな」 「はい。私はこの通り、存在しています」 昨夜と変わらない鎧姿で正座をしている彼女は美しく、思わず涼は見惚れていた。 「……私の顔に、何かついていますか?」 「あ、いや、あー、本当に何かついてるし」 エリミラの左頬に、赤黒いものが僅かに付着していた。 乾いた血液であるように見える。 「失礼、返り血が落ちていなかったようです。お手洗いをお借りします」 彼女は静かに立ち上がり、トイレへと向かっていった。 寝惚けた頭で昨夜の記憶を思い返すと、窓が割れたことと死体が転がっている事に気が付いた。 「ま、まさかあのままじゃ……」 布団を跳ね飛ばし、確認に向かう。 しかしそこには、血痕はおろかガラス片すらもなかった。 割れたままの窓だけが、昨夜の記憶と一致する。 「彼らは、死ぬと何もせずとも消えてしまうのです。飛び散ったガラスは、明け方に私が掃除しておきました」 いつの間にか背後に立っていたエリミラが、そう答える。 「君が掃除してくれたのか?」 「ええ。あのままにしておくのは危険ですので」 「メイドみたいだな。でも、ありがとう」 涼の言葉にはエリミラは少しだけ笑みを浮かべたように見えた。 しかしすぐに、元の固い表情に戻る。 「リョウ、今日はこの街の地理を把握したいと思います。深夜に探索しましたが、私だけでは理解が及びません」 「え、その格好で?」 「はい。何か問題ですか?」 今朝は警察に起こされていなくてよかったと、涼は安堵した。 「……案内するけど、その前にちょっと会議な」 常識の異なる世界を生きていた吸血鬼に、涼は朝から心労を抱えることとなった。
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