7人が本棚に入れています
本棚に追加
「今の世の中に剣持って鎧着てなんて奴が居たら、即刻通報されるんだ。だから、案内の前にまず着替えてもらうぞ」
正座をさせられたエリミラの前には、きれいに畳まれたスーツのセットが置かれていた。
「男物だし、ちょっと大きいけど、鎧着てるよりはマシだろ」
エリミラはスーツやシャツを開いては眺め、着用方法の確認をする。
そして畳み直し、軽くお辞儀をする。
「ありがたくお借りします。着替えますので、その……」
「あ、ああ、悪い。出来たら呼んでくれ」
別室に移った涼は、しゃがみこんで頭を垂れ、自身を恥じた。
常識が違う吸血鬼とはいえ、相手は女である。
最低限の気遣いはするべきであった。
「これでどうでしょう、おかしな所はありませんか?」
申し訳なさと共に顔を上げると、そこには上品な若き紳士が居た。
彼女は現代のスーツを見事に着こなして見せたのだ。
髪を縛ったこともあり、男と言ってもなんとか通用するだろう。
「似合うな」
「ありがとうございます。さて、案内を頼みたいのですが……」
「ああ、悪い。俺も着替えるよ」
涼は厚手のパーカーにジャンパーを羽織り、寝癖を軽く直して準備を終えた。
その間、エリミラは涼の就活マニュアルを読んでおり、現代の知識を吸収しようとしていた。
「さて、まずはどこに案内しようか」
「ここ最近、猟奇的な殺人が相次いでいると耳にしました。出来れば、その現場に向かいたいのですが」
正直なところ、あまり気が乗らない場所ではある。
しかし、今後の事を考えると、彼女の要望には応えるべきであろう。
「分かった。でも、警察が進入禁止にしてるだろうし、中には入れないぞ?」
「構いません。傾向がを知るには十分です」
何の傾向かは、敢えて聞かずとも分かった。
彼女は、何か対策を講じるつもりなのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!