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何をするんだと、涼は言おうとした。
言葉を発する前に金属と金属が激しくぶつかり合う音がしなければ、彼は実際に発言していただろう。
「失礼。お怪我は?」
「な、無いけど、なんだよそいつ……」
エリミラの向こう側には、骨のように細い四肢と甲殻類を思わせる胴体の、奇怪な人型の生物が居た。
両腕は剣となっており、エリミラはそれを受け止めている。
「グッハッハッ!マサカ吸血鬼ガコンナ場所ニイルトハナ!」
「そういう貴様はグリィドセイバーか!古に滅んだ妖魔が、何故此処に!」
涼は記憶を辿るが、伝承生物にグリィドセイバーなどという名前はない。
まるでゲームのモンスターだ。。
「リョウ、これは人類に記憶されることすらなかった弱くて脆い、哀れな存在です。それでも妖魔は妖魔、ゾ昨夜の形無き魔性とは違って、普通の人間が束になっても敵う相手ではありません!」
受けていた剣を、エリミラは力強く押し返す。
「言ッテクレルナ吸血鬼!ダガ多クノ血ヲ浴ビタ我ハ、弱小魔族デハ既ニナイ!」
叫ぶと同時に、その背からさらに一対の腕、もとい剣が現れる。
昨夜を大きく越える異常事態に、涼の思考は酷い混乱状態に陥る。
「踊リハ得意カ?吸血鬼ノオ嬢サン」
余裕を含んだ、酷く聞き取り難い言葉を怪物は発する。
エリミラは目を逸らすことなく後退し、リョウの腰を抱き上げる。
「お、わ、何だ!?」
「ここでは人目につきます。ここは撤退します」
たったそれだけ伝え、返答も許さず、彼女は後方の家の屋根まで飛び上がる。
そして隣家へ、隣家へと飛び移り、高速で移動する。
「逃ガスカ!貴様ノ血ヲ浴ビレバ、我コソ無双ノ王トナレルノダ!」
グリィドセイバーもまた、屋根伝いに二人を追う。
しかし、その機動力の差は大きく、程なくして見失ってしまった。
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