1章 闇はいつも隣に

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震える手で鍵を掴み、そしてアパートの自室に飛び込む。 施錠だけでは恐怖は拭えず、周囲のゴミや持っていたカバンなど、手当たり次第に扉へと投げつける。 「なんだよあれ……。現実世界で、ゾンビでも出たのか?!」 乱れた呼吸を整える間もなく、彼はベランダにもバリケードを築こうとする。 机を動かして塞いでしまおうとしたその時、あるものが彼の目に飛び込んできた。 「黒魔術の教本……?そう言えば、古本屋で買ったな、こんなの」 現実離れした外見と本格的な内容に惚れ、飲料と大して変わらない金額も手伝い、購入を決めたものだった。 しかし、いくらなんでも本物であるとは思っておらず、飽きたら店に売るなり人にくれてやるなりするつもりであった。 「こんなものを気にしてる場合じゃないな。さっきのヤツが来てたら――」 全身が総毛立つ殺気を感じ、咄嗟に教本を掴みとって身を護る。 すると同時に窓ガラスが割られ、室内にナニカが飛び込んできた。 吹き飛んだガラス片で指や衣服が切れてしまったが、今の彼にはそれに気付く余裕はない。 「な、なんだってんだよ!反則だぞ!ルール違反だ!」 冷静さを欠いた彼は、意味不明なことを口走る。 女の姿をしたナニカは、彼の姿を認めるとニタリと笑った。 「く、来るなチクショウ!あっちに行け!」 彼の叫びが虚しく響く。 腰を抜かした彼を、ナニカはゆっくりと追い詰める。 「ひ、く、くそ……!」 彼は何を思ったのか、教本の適当なページを開いた。 そのページには魔法陣が描かれており、彼は中心に無我夢中で紅く染まった指を突いた。 まさに藁をも掴もうという様子であり、その魔法陣が何を意味するものなのかなど確かめる余地はない。 「クソ!やっぱりこれはただの……。もうダメかよ、死にたくねぇよぉ……!」 見開いた目は、眼前のナニカから逸らすことが出来ない。 最後の瞬間を迎えるまで、閉じることは叶わないかも知れない。 恐らく、このまま事が進んでいけばそうなっていたのだろう。 しかし、教本より強烈な光が放たれたことにより、ナニカは怯んで後退し、残酷な未来はたち消えることとなった。
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