1章 闇はいつも隣に

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両断されたナニカはピクリとも動かず、その場に崩れ落ち、血溜まりの中に沈んでいった。 人間と同じ姿のナニカが斬られる様は見ていて気持ちのいいものではなかったが、不思議と直視することが苦にならなかった。 「お、俺の部屋が……」 何がなんだか彼には分からないが、助かったことは理解したようだ。 死体の転がる部屋から逃げ出したいのは山々だが、眼前の騎士の詳細も分からないままに逃げ出すわけにもいかない。 「お怪我は?」 「指を切ったかな……。それより、お前は誰なんだ?」 彼女は黙して涼に跪く。 とは言っても、腰を抜かしている彼から見れば目線は同じなのだが。 彼女と涼との距離は近い。 端麗且つ妖艶にも見える彼女の姿が目の前にあれば、普段の涼ならば胸が高鳴りもするのだろうが、今はそんな状況ではない。 「私の名はエリミラ。あなたに召喚された吸血鬼です。これより私はあなたの剣となります」 現代に吸血鬼、現代に召喚。 異世界にでも迷い込んだのかと考えたが、窓が割れて血溜まりに死体が転がっている以外は普段の自室と変わりがない。 「エリミラ、か。とりあえずありがとう」 「いえ、これが私の使命で――」 彼女は突然ぐらりと揺れる。 咄嗟に涼が支えなければ、そのまま倒れていただろう。 「大丈夫か!?」 「大丈夫です、契約すれば問題は……」 病に伏した少女のように弱ったエリミラは、とても剣を振り回して戦っていたとは思えない。 「……時間がありません、あなたの血をいただきます」 「い、いきなりなんだよそれ!しかもそれって、俺も吸血鬼に……」 「大丈夫、吸血鬼にはなりません。でも少しじっとしていて下さい。痛いですけど、耐えてください」 痛いと言われて、思わず涼に力が入る。 エリミラは構うことなく、涼の首筋に牙を突き立てた。 血液の流れを感じる。 エリミラの牙に、血液が流れ込むのが手に取るように分かった。 「んっ……く……んぅ……」 官能的な声をあげながら、エリミラは血を啜る。 顔も僅かに紅潮しているようだ。 「い……イテテ……」 しかし、涼がそれに気づくことはない。 太い注射器で刺されたような痛みが、彼を襲っているのだから。 吸血される側は快楽を感じるとどこかで見た記憶が彼にはあるのだが、これではあべこべである。 騙されたような気になったが、黙っておくことにした。
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