1章 闇はいつも隣に

8/9
前へ
/33ページ
次へ
時間にして数秒で、彼女の食事は終わった。 血を吸われる奇妙な感覚は無くなったが、痛みはまだ残っている。 血を吸われたためか、頭がぼんやりとしているものの、意識はしっかりとある。 「これで契約は完了です。これを先に済ませないと、私はあと数分で消えてしまうところでした」 「……うん、教本にも書いてある」 内容を確かめながら、涼は頷く。 彼女に関する説明と言うよりは、何者かを呼び出した場合全般の解説のようだが、彼女自身の説明と相違はない。 「まだ名前も聞いていませんでしたね」 「ああ、済まない。俺は時永涼、大学生……といっても分かるかな」 「リョウ、ですね。明日までには今の世の知識を深めますので、お気になさらず」 実際、分かっているわけではないようだ。 もしかしたら、現代の道具や施設については知らないものも多いのかも知れない。 「ところでリョウ、あなたの右手を見てください」 「右手?……うわっ!」 言われた通りに右手に視線を写したリョウは、甲に紋章のようなものが浮かんでいることに気がついた。 コウモリと目玉をモチーフにしたと思われるそれは、独特の不気味さを醸し出していた。 「契約の証です。それがある限り私はあなたの剣であり、あなたは私の能力の一部を扱えます。その証拠は、首の傷に触れてもらえれば分かるかと」 「首って今度は……あれ?無いぞ?」 エリミラに噛まれた筈の傷が無くなっていた。 いつの間にか、痛みもなくなっている。 「私の能力の一つ、超再生です。少しの傷なら、数分で治癒します。人間でなくなったわけではありませんので、ご心配なく」 血を吸われた事と疲労が重なり、半ば理解が追い付かなくなりつつあるが、とにかく今は話を聞くことだけに集中した。 どうしても分からなければ、いずれ落ち着いたときに尋ねれば問題ない。 付き従うと公言している以上、こちらの質問にも彼女は答えると、涼は考えていた。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加