1章 闇はいつも隣に

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涼の様子がおかしいことに、エリミラはようやく気が付いた。 原因には心当たりがある、というよりは当事者である彼女は、少しだけ罪悪感を感じていた。 「リョウ、無理はなさらないで下さい。顔色も悪いですし、目が据わっています」 血を抜かれたことと、慣れない体験を繰り返したことで、涼は今にも眠ってしまいそうだった。 数分前が嘘の様に、思考がぼんやりとしていた。 体が警鐘を鳴らしているようにも、彼には思えたことだろう。 「すまん、エリミラ。俺、もう眠りたい。フラフラするんだ……」 「そうですよね。いきなりあんなものに遭遇した挙げ句、血を吸われてあれやこれやと説明されているわけですから」 エリミラはリョウを優しく抱き上げ、寝室まで運ぶ。 朦朧としている涼は、その行動になんの疑問も抱かなかった。 「エリミラ……。これ、夢か……?」 「いいえ、現実です。明日も私はあなたの剣です」 「そう……か……」 涼は意識を手放し、闇の底に沈むように眠りについた。 眠りについた事を確認したエリミラは、先程仕留めた敵の残骸を調べることにした。 涼への説明や契約を優先させていたが、時点で優先すべきは敵の情報を知ることだ。 幸い、最も分かりやすいサンプルとでも言うべきものはすぐ傍に転がっている。 「死体を依り代にした低級悪魔でしたか。リョウが目覚める頃には、死体は跡形も無くなっていることでしょう」 死体の末端は腐敗して崩れ去り、飛び散った血飛沫も蒸発するかのように消えている。 「月は相変わらず、美しいですね。あの頃と、今日も同じ」 月を眺めながら、彼女は耳を済ます。 崩れつつある低級悪魔と同じ気配が、街中の至る所から感じられる。 「何故、今これほどの魔性が蔓延っているのでしょう。私がまだ何者にも縛られていなかった時の方が幾分静かでした」 彼女は喚び出される以前の記憶を辿る。 喜びの記憶、悲しみの記憶、全てが鮮明に思い出される。 しかしどの記憶も、これほど騒がしい世の記憶ではない。 「何が起きているのかは知りませんが、今の私はリョウの剣。仇なすものを切り伏せる、一個の暴風なり」 彼女は剣を手にベランダから飛び出し、夜の闇へと溶け込んでいった。 その日、事件の発生を告げるサイレンは普段より少なかった。
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