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ある日のこと。いつものように放課後になると、学校帰りの小学生が「ぷー」と声をかけていた。ぷーは声をかけられても、なでられてもじっと動かないで目を閉じている。なにも反応してくれないので、その小学生はぷーの相手をすることに飽きて帰って行った。
しばらくすると、もうひとりの女の子がぷーの前を通りがかった。この子はさゆりちゃんというまだ転校してきたばかりの小学四年生で、ぷーに会うのは初めてだった。
「猫だ」さゆりちゃんはぷーをなでた。「太った猫だなあ」
ぷーはやっぱりじっと目を閉じたまま鳴き声一つあげない。それでもさゆりちゃんはしばらくぷーをなでていた。
「おーい、寝ているの? 生きてるよね?」
あんまりぷーが動かないものだから、だんだんさゆりちゃんは心配になってきた。すると、ぷーは返事をするようにのどをごろごろと鳴らした。
「よかった」さゆりちゃんは安心すると、なでるのをやめてぷーに向かって手を振った。「バイバイ猫ちゃん」
それでもぷーは無視をするように黙って目を閉じている。結局、ぷーはのどを一回鳴らしただけだった。
さゆりちゃんはふと気になって振り返った。塀の上にはまるまるに太った白い猫が一匹。その偉そうで無愛想な様子がさゆりちゃんにはお地蔵さんのように見えた。
さゆりちゃんはなんとなく両手を合わせて、ぷーに向かって拝んだ。そのとき、まるでぷーはそれに気がついたかのようにしっぽを一度パタリと揺らした。
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