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『大丈夫だよ。斉藤係長はこれぐらいの仕事すぐに終わらせてくれるよ。係長に任せておけば間違いないよ。だって俺が尊敬する立派な上司だからさ』
「……急にほめだしましたね。これはどういうことでしょう?」
「係長を持ち上げているようにみせて、これはさっさと仕事を終わらせるほど優秀だから手伝う必要性はありませんよねと言外にアピールしているんですね。ここでできない、もしくは手伝ってくれと言えば自分が無能だと言う事を認めることになりますから。プライドの高い斉藤係長はこれで手伝ってくれとは言えなくなりました」
「なるほど。高度なやりとりですね。斉藤係長も後藤選手の言葉に顔を引きつらせていますが、否定はできないようです。あとは俺に任せておけとまで言っています」
「顔は笑っていますが腹の中は怒りで煮えくり返っているでしょうけどね」
「後藤選手は後輩と一緒に踵を返してオフィスの出口にむかっていきますね」
「これは誰もとめることができないでしょう」
「これは無事に帰宅できるでしょう。……おや。オフィスの入り口が開いて誰か入ってきましたね」
「……これは不運ですね」
「どういうことですか?」
「入ってきたのは遅くまで仕事をすることで有名な坂下部長です。遅くまで仕事をしていれば仕事を頑張っていると思っているタイプですね」
『お、皆仕事頑張っているかね? おや、随分人が少ないな。まさかもう帰ったのか? まったく最近の若い者は……』
「これはピンチだぞ。後藤選手帰りづらくなってしまったー」
『お、後藤君。君は休憩かね? 適度に休憩をはさんで仕事に励んでくれたまえ。ああ、そうだ。休憩が終わったら頼みたい仕事があるのだよ』
「帰ろうとしていたところを休憩と断定されてしまいました。これは辛いですね。まさかここで帰るとは言いづらいです」
「後藤選手は周囲を伺っていますね。これはここで帰ることは無理そうなので早く仕事を終わらせる作戦に変更するようです」
「おっと、同僚の高木と目が合いましたね。高木も今まさに帰ろうとしていたところのようです。ん? なにやらジェスチャーをしていますね」
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