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「これは……妊娠中の嫁が。帰らないと……怒るから? すまない? ですかね」 「しきりに謝るジェスチャーをしています。これには後藤選手も無理は言えない小さくうなずいて顎で出口をさしています。引き止められる前に早く帰れと言う事でしょう。次に目が合ったのはまた同僚の柳田ですね」 『お、柳田くんも手伝ってくれるかね』 「柳田、不幸にも部長に気づかれてしまった。これは柳田も残業コースか?」 『すいません。今日は子供が熱を出していまして。早く帰ってあげたいんですよ』 「出たー! 伝家の宝刀子供を抜刀です! これはには部長も強くは言えないー!」 「これで子供が本当に入院とかすれば責任問題になりますからね。本当に子供が熱を出しているのかどうかは問題ではありません。そういう事実があるという事をアピールすることが重要ですね。結婚はしていますが子供がいない後藤選手には使えない手です」 『しょうがない。後藤君と木村君の二人に手伝ってもらおう』 「部長の言葉に後輩木村が悲壮感漂う表情を浮かべている。これは……。手元の資料によりますと、木村は初めてできた彼女と初めてのクリスマスを過ごす約束をしているようです。これはかわいそうだー」 『いえ、私一人でも大丈夫ですよ。まだ若い木村が手伝うと足手まといになる可能性がありますから』 『そうか……。まぁ君が言うなら。後藤くんに頼もう』 「これはどういうこですかね?」 「先ほどの係長とは別パターンですね。後輩を未熟だと言っていますが、これは自分が生贄になって後輩を帰すという生贄の儀式という技です。本人もあまり使いたくはなかったでしょうが、確かに木村はかわいそうですからね。後藤選手からの気遣いでしょう。木村もそれはわかっているようで何度も部長の後ろで頭を下げています」 「しかし、これで後藤選手はますます帰りづらくなりましたね」 「確かに。これはかなりの劣勢と言えるでしょう」
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