第一章 怪物と友愛のはざま

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 塾の帰り、二見景子(ふたみけいこ)は奇怪な人物と出会っていた。  景子は十六歳の高校一年生。  身長は一五二センチと小柄だが、空手の道場を経営している祖父に鍛えられ、中学校では県大会二位の腕前だ。  ちなみに色は浅黒いが、自分では中の上くらいの器量だと思っている。  そんな彼女には《ある能力》があった。  時間を二十四時間前に巻き戻すことができるのだ。  滅多に使わない。  能力はつまらないことに使ってはいけない。身を滅ぼすことになる。と、祖父から強く戒められているからだ。  その彼女が黒いオーバーの怪人に呼び止められて戸惑っていた。  「二見景子さんですね」  景子は怪人を見るなり目を丸くした。山高帽を目深にかぶり、目にはサングラス、口には大きな白いマスク、どこから見ても怪しい不審者ではないか。  「あ、あのどちらさまでしょうか」  すると怪人物は「はじめまして、私の名前は湯野村紘一(ゆのむらこういち)、お祖父様とは親友の間柄です」と、自己紹介する。  声だけだと結構若い。ハタチぐらいだ。  (おじいちゃんの友達に、そんな若い人がいたかなぁ)  「なにか御用でしょうか」と訊いてみると、いきなり「どうか私と一緒に戦ってください。世界は《グール》の危機にさらされているんです」などと、とんでもないことを頼んでくる。  「はあ? グールって何ですかぁ?」  怪人の話は続く。《グール》とはアメリカ軍でも密かに開発している軍事用ドローンで、大きさはコガネムシくらい、丸い形をしていて表面を熱伝導率が高い銅で加工している。稼働すると、表面がグリルの鉄板のように熱くなり、敵兵の皮膚や筋肉を焼いて体内に潜り込み、脊髄から脳に触手を伸ばして前頭葉を破壊、電気信号を与えて一種のロボットにしてしまうのだ。  敵兵士は、まるでゾンビのように街を徘徊して人間を襲って喰うようになる。  燃料補給のためだ。  ドローンはタンパク質を燃料としているので、人肉がある限り活動を停止しない。  まさに食人鬼、それをクリスマスプレゼントにカムフラージュして、ある《人物》がバラ撒くという。  「明日になれば手遅れになってしまいます! その前に破壊しないとダメだ!」
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