第一章 怪物と友愛のはざま

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 「なんでも、どこかの業者が学校に無許可で、下駄箱に入れてるんだって~」  「なに、それ、全校生徒に配ってるってこと?」  「そう、そう」  「なーんだ、ただの宣伝か」  「そうらしいよ、ねえ! 学級委員長!」  自分の机に覆いかぶさるようにして居眠りしている学級委員長の北島小夜子(きたじまさよこ)から返事はなかった。極端な低血圧なのだ。おまけに夜型で勉強しながらラジオの深夜放送を聴いているので朝は元気がなく、ぼんやりしていることが多い。  そんな彼女から美味しそうな匂いがする。  焼肉が焼ける匂いだ。  景子は(だれか朝から焼肉を食ったのか?)と、考えたが違った。教室のあちこちから同じ匂いがする。  景子は三田に話しかけた。  「なに、この美味しそうな匂い」  それに三田も頷いて、「どっかでバーベキューでもしてんのかしら」  景子は首をかしげた。実は先ほどから昨夜の怪人の予言が思い出されて仕方ない。  (まさか、あれがマジなんてことはないでしょうね)  三田が北島の肩を揺すった。  「ほら、起きろ、委員長! もうすぐ先生が来る時間だよ!」  なかなか北島は起きない。  「小夜子! 起きろって!」と、再び三田が肩を揺すると、ようやく目が覚めたらしく、北島は「なによぉ~」と、間延びした声で返事しながら起きた。  その途端、三田がヒステリックな金切り声を上げる。景子も同様だ。  なぜなら北島の顔は穴だらけ。ニキビとか、そんな規模ではなく、親指くらいの大きさの穴がいくつもあいて、まるで蜂の巣のようだ。  不気味なのは両目がなく、炭のように黒くなった内側の肉が見えているところだ。  とても生きているようには思えない。  不気味なのは痛みを感じていないらしく、「もう金本先生が来たの?」と、返事する。  三田も景子も、緊張で舌が渇いて返事もできない。これほどの傷を負いながら、のほほんとした本人の態度が、さらに恐怖を増幅させる。
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