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彼女は昨夜、出会った怪人の話を聞かなかったことをひどく後悔した。
(あの男の人に会いたい! 会って、きちんと話を聞きたい!)
イチョウの枝から道路へ飛び降りた瞬間、彼女の体は謎の光に包まれていった。
*
此処は高校の隣にあるマンションの屋上、老人は血が渇いたような臙脂色(えんじ(いろ)のベレー帽と焦げ茶のオーバーで防寒して、学校で起きた惨劇を双眼鏡で眺めていた。
彼にとってクリスマスは、自分が開発した殺人ドローンを日常へ忍び込ませるのに便利な日にすぎない。
望むのは、より多くの若者の死だ。
老人はつぶやいた。
「そうそう、頭に入り込め、脳みそなんていくらでも焼けて構わん」
そんな彼のところへ、顔を包帯だらけにした助手が、ゆっくりとした足取りで近づいてきた。
「報告か? ナンバーエイト」と、老人が訊けば助手は『お早く、屋敷にお戻りください、もうすぐ警官隊がやってきます』と、心配する。
助手の声はシンセサイザーで造ったような人工的な声だ。
それを聞いて、老人はせせら笑った。
「それがどうした、やつらの装備で防ぎきれるものか、返り討ちにすればよかろう」
ところが思いがけない報告をされて老人は驚愕した。なんとグールは全て破壊されたというのだ。
「なにい! バカを言うな! あの学校の光景が貴様には見えないのか!」
再び老人は双眼鏡で、高校を眺めたが――信じがたい光景が目に飛び込んできた。
死屍(しし)累々(るいるい)の死体の山が築かれていると思いきや、普通に各々の教室で過ごしている生徒と教員の姿があるばかりなのだ。
「そ、そんなバカな!」
そう老人が落胆した時、助手と一緒に彼の姿は消えてしまった。
*
十畳ほどの洋室に暖炉が燃えている。
木製のアンティークな机に同じサイズの白い紙箱が百個くらい並んでいた。
もうすぐクリスマス、各デパート、劇場などでも様々なイベントが盛り沢山だ。《彼》は屋敷の窓から、イルミテーションに飾られた街の風景を眺めながら、ひとつひとつ心を込めてプレゼントを包装紙に包み、ピンクのリボンで飾っていた。
いつの間にか後ろに来ていた助手が、「そろそろおやすみの時間です」と、話しかけてきた時だった。
老人は違和感に顔をしかめた。
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