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なぜか機械的な声ではなく、景子の声に変貌していたのだ。
「なんだ? その声は?」
振り向くと助手が「おりゃあ!」と叫んで、空手チョップを脳天に叩きつけてきた。
その勢いでベレー帽が吹き飛んだが、なんということか、老人の頭には頭蓋骨も脳髄さえなかった。その代わりあるのは強化ガラスのカバーに防備された電子頭脳だ。
強化ガラスが粉々に飛び散り、中の装置に助手の拳が食い込む瞬間、《彼》は《因果》という言葉を思い浮かべた。
「こ、これはいったい……」が《彼》の最期の言葉だった。
助手が偽物だと気づいたものの、その正体がわからないし、厳重に防犯されている屋敷に、どうやって潜入したかも謎だ。予想外の出来事に混乱したまま、《彼》の電子頭脳は黒い煙を上げて機能を止めてしまった。
老人は人間ではない。実は人に憧れるあまり、生みの親の身体を奪ったロボットなのだ。つまりの人間の肉体であるが頭脳はロボットというのが正体だった。
だが《彼》は人間になれただけでは満足しなかった。手に入れたのは老人の体、すぐに寿命で動けなくなってしまう。
しかし新しく若い肉体を手に入れたくても、老人の身体ではどうにもできない。
そこで軍事用ドローンを独自に開発して、仲間を増やそうと企んだ。
高校を襲ったのはスペアの体を探すため――
助手は元の自分のボディを改造した分身だ。従順な部下にするために電子頭脳のプログラムから《自我》を除いてある。包帯で顔を隠しているのは《怪物》の命令だった。
《怪物》は無機質なかつての自分の顔を忌み嫌っていたからだ。自由もなく、《支配》がなければ憎しみも喜びも感じられない。人間に進歩する前の自分を眺めて、平静でいられるほど《彼》の意識は成熟していなかった。
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