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「ねぇご存知?夜の海に身を投げたらお月様の元に行けるのよ。お月様に一番栄えるのは夜の海だから、お月様は夜の海をいっとう贔屓しているの。だから夜の海を選んだ人はお月様に行けるんですって」
そこまで一息で言った。あはは、と笑い声が出る。
「まぁ、嘘なんだけど。ごきげんよう、良い夜ですね」
ざあざあ、波の音がする。わたしの薄手のワンピースのポケットの中のラジオは壊れかけているので、ざあざあ、ノイズ。夜の海の砂浜をノイズが走っている。
白い砂浜からわたしは起き上がることにする。砂浜に横たわった理由、は、ええと、忘れてしまった。たぶんうつくしかったからだ。夜の海、お月様、ノイズ、波の音。冬の、夜の、海の、端。テトラポットがじいっと立っている。
「……どうして」
「あはは、どうしてだろう。ねぇ、寒いね。風が強いよ」
びゅう!と風が吹いた。風が強いことは、良い事だ。今夜は良い夜。風が強いから星が今にも落っこちそうに瞬いている。
「ごきげんよう。良い夜ですね。ねぇ、わたしはあなたのお返事を待ってるのだけど」
「……ごきげんよう。最低な夜だな」
「そんなこと言って。いつも最低な夜なんでしょう」
「そうだよ」
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