夜の海の端で周波数を集める。

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「おい、ちょっと」 「なにが悪かったっていうの!」 うわあああ、と叫び声が零れる。わたしは、わたしは、わたしは、わたしは! 「ただ、とうさんに、愛されていれば、それで!!」 わたしのうつくしき母親、会ったことのない母親、そんな母親を父は選んで、わたしは父を選ばなかった。なんてひどい、なんてひどい、わたしは、母は、父は、わたしたちは、 なんて、いびつな。 「――だからわたし、すべてを、忘れたくて」 例えば海の音、母の声、父の手、赤色、ラジオ、ひるがえるコート、うつくしい髪、あたたかいもの、あたたかいもの、あたたかいもの! 「海――海を選んだら、とうさんと同じ、海、を、選んだら、もしかしたら」 「それでもお前のとうさんは帰ってこねぇよ」 ずっ、と砂浜の上を引きずられた。赤いラジオが手から離れる。ああ、海の音!わたしがラジオに手を伸ばすよりはやく、ずるずると引きずられる。ざあざあ、ざあざあ、 ばしゃん!と痛いほど冷たい水が頬を打った。 「死んだ人は、どうしようもないんだ」 「――どうして、そんなことを」
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