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「今から入学式よね?道に迷わないように気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
年老いた人特有の暗いあおいろの瞳を細めて、家主は笑う。私はまだ硬い鞄のひもを握りしめて、坂道を下る。あの人の笑顔は、善良な人の笑い方だから、少し苦手だと感じてしまう自分が嫌だった。
私が入学する高校はミッション系の女子高である。焦げ茶の煉瓦で出来た校舎や、白い聖堂は、物語の中のステージのようだと思う。マリア像が私を静かな瞳で見下ろしている。じっ、と見上げていると、私の隣を通る先輩たちが訝しげな顔をしながら私を見ていた。ああ、あの子ね、という声もした。
マリア像に一礼してから、校舎に向かう。下腹部に重い痛みがあった。シスター服を着た先生に誘導されて荷物を教室に置く。一年C組。私が教室に入ったら一瞬静まり返ったのはきっと勘違いではない。
私が最後の生徒だったらしい。すぐに担任の先生が入ってきた。私の席は真ん中の一番後ろ。出席番号二十八番。私の新しい肩書き。入学式が始まるので、今から移動します。先生の声に従ってずらずらと聖堂へと皆で歩き出す。
「浪上、さんっ」
「えっ、はい」
とんとん、と肩をつつかれて、歩みは止めずに振り返った。にこっ、と笑うクラスメイトがいた。顔立ちは愛くるしく、瞳は薄い茶色にすけている。
「あなたよね、浪上望月さん。淫売の、むすめっ」
「……」
しんっ、と私の周りだけが静まり返る。私に話かけてきたクラスメイトの笑みはそれでも変わらなかった。
「あら、違った?そうだったらごめんなさい」
「いいえ。そう、合ってる。私は浪上望月で、淫売のむすめよ」
「やっぱり」
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