卑しい赤い花が咲きました。

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「私、同じ年くらいの女の子が嫌いだから。友達とかも、嫌よ。珍しいから近寄ってくる程度なら、やめてちょうだい。私はあなたを嫌いになるわ」 「あら、奇遇ね。あたしもそうよ?」 くすくすと七月さんは笑う。私の手を掴んで、聖堂へと歩き出す。いくつもの古い木の椅子と、マリア像、ステンドグラス、蝋燭のにおい。懐かしい、と私はそんなことをほんの一瞬感じて、動揺した。 私みたいな卑しい人間が、あの温かい教会を懐かしむなんて、そんな。 「ねぇ、そんなことくらいわかっているわよ。あたし、これでも馬鹿じゃあなくってよ。ほら、行きましょう、浪上さん。今日は先輩方が賛美歌を歌ってくださるって言われたけど、浪上さんは賛美歌、ご存知よね?なんてったって育ちは教会ですもの」 「えぇ。一応、知ってるけど」 「まぁ素敵。私、おばあ様に育てられたのだけど――あ、母方のおばあ様ね。おばあ様が日本舞踊でお偉いお方で、昔気質のお方で。あまりこういうものに触れられなかったものだから……。目の色も薄いでしょう。おばあ様には散々嫌われたわ。だったら引き取らなければ良いのにね」 「バーンズさん」 「ねぇ、浪上さん、あなたのご家族は、どなたが外国人なのかしら?」 きらきらきらっ、と色素の薄い七月さんの瞳が光った。ステンドグラスから色とりどりの光が落ちてきて、とてもうつくしい。明るい光に透かすと、七月さんの髪の毛は茶色に見えた。 「……父方の、祖父が、イタリアの人よ」 「あら、そうなの。綺麗な瞳よね。ご存知?グリーンの瞳は人口の中でたったの2パーセントしかいないのよ。あなたは特別を持ってるのね。エメラレルド!今日からあなたのこと、エメラルドって呼ぼうかしら」 「あの、バーンズさん」 「さっきから苗字であたしのこと呼んでるけど無駄よ。あたし、あなたに興味津々なのだから。今更離れてくれないの。オナモミがコートに付いたとでも思って諦めてちょうだいね」 でも、と私は諦め悪く言う。鐘の音がした。シスターが蝋燭を片手に壇上へ上がる。後ろで先輩たちが一斉に立ち上がる音がした。
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