卑しい赤い花が咲きました。

7/61
前へ
/170ページ
次へ
「残念。もう手遅れよ、浪上さん」 悪戯が成功した子供みたいなささやき声は、清廉な賛美歌に紛れて私にしか聞こえなかった。          * マグカップに薄いコーヒーを入れて飲む。まずいな、と思った。 ロイヤルブルーの手帳を頬杖をついてぱらぱらとめくる。日記帳なのだという。これを毎日毎日書いて、提出しなさい、と担任の先生に言われた。 日記、というものを書くのが私はとても苦手で、これまでの学校生活でこの手のものはいつも提出しなかった。いつものように適当に仕舞い込もうと勝手に決めている。 「……今日あったこと、ね」 この学校を選んだ理由は、と誰かが溌剌とした声で離していた。ホームルームの時の自己紹介の時だ。この学校を選んだ理由は、うつくしい伝統があると、母に聞いたからです。この学校のOGだという担任の先生は満足そうに笑っていた。 名前と、出身中学校、この学校を選んだ理由を添えた自己紹介を促され、私は名前と出身中学校しか言えなかった。怪訝そうな顔をしたのは県外からやってきた子だけで、うふふ、とちいさな声で笑ったのは七月さんだけで、あとのみんなは気まずそうに俯いていた。 ほら、あの子よ……、とささやき声が聞こえた。 今日あったことなんて、そんなことだ。           * 「浪上さんは部活動は決めたのかしら」 お昼休み中に、なんの気のないような声でそんなことを聞いてきたのは、入学式から一週間経ったときだった。聞いてきた相手は、今だ私にくっついてくる隣の席の住人。 「……私、部活動はしたくないんだけど」 「あらあら!この学校は部活動に全員参加よ」 「え、そうなの」
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加