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「そうよ。この学校、部活動で有名だもの、しょうがないわよね」
「……七月さんは?」
ちょっと聞いてみると、七月さんは意外なほど嬉しそうに笑った。
「そんなこと聞いてくれるの、初めてね。あたしは美術部にしようかと思って」
「ここ、日本舞踊の同好会とか、なかったかしら」
「あるけど、入れっておばあ様にも言われてるし、誘われては、いるんだけどね」
七月さんはやたらと豪華なお弁当のおかずを一口二口つつく。私はというと、お弁当を作るなんて面倒なので、いつも学校に来る途中でパンを買っている。なんで私と彼女はいつもお昼を一緒に食べてるのだろう、と不意に思った。お手伝いさんが作ってくれているという豪華なお弁当と、パン二つ、が、いつも不揃いに並ぶ。
「……あたし、日舞は好きだけど、苦手だもの」
「……えっ?」
「あら、浪上さん、あたしの話し聞いていなかったわね」
「……ごめんなさい……」
「ふふ、いいわよ、許してあげる」
玉子焼きを一口かじった七月さんは、目を伏せたまま話し出す。口元には芝居がかった笑み。どことなくフランス人形のような顔立ち。可愛らしいかんばせである。
「ここのね、日舞同好会は、おばあ様が先生としていらっしゃるのよ」
「……だったら、入りたくない、わね」
「そう。むしろ入れなんて言うその神経が許し難いわよね。入るとでも思っているのかしら」
「嫌いなの?」
「おばあ様はね」
「日本舞踊は」
「好きよ」
ふふ、と七月さんは笑う。彼女の色素の薄い髪に紛れるように、ちいさな髪飾りがついてるのに今気付く。 手を伸ばすと、七月さんはびくっと肩を震わせた。
「あ、ごめんなさい。髪飾りがあると思って……」
「ああ、こちらこそごめんなさい。ふふ、髪飾り気付いてくれたの、嬉しいわね」
するりと髪飾りを七月さんは取って、私に手渡す。薄青の朝顔のちりめん細工が三つ並んでいる、可愛らしいちいさなピンだった。
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