卑しい赤い花が咲きました。

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「……可愛いわね。とても素敵だと思う」 「ありがとう。お母さんがね、入学祝いにくれたの。季節外れねって、笑っちゃったけど……ここから、こう、飾りだけ抜けるから、Uピンにも飾れるから、浴衣の時にも使ってねって」 ちらっと七月さんを見た。朝顔を眺めるその顔は穏やかで、いつもの芝居がかった笑い方ではない。きっとこちらが素なのだろう……。 「……お母様には、敬語を使わないのね」 「……」 余計な一言を添えた私の手から七月さんは黙ってピンを引き抜く。またいつもの芝居がかった笑みを貼り付けて、芝居がかった話し方で、七月さんは静かに言い放つ。 「お母さんは家族だもの。浪上さん、余計なことをなさらなくっても良いのよ。あたしはあなたのお友達になるの。今の言葉をなにも考えずに言うんなら、お友達になるのを考えないこともないけど、わざと言うんなら絶対にお友達になるのを諦めないわ」 「……ごめんなさい」 「ふふ、許してあげる」 七月さんは半分ほどしか食べていないお弁当箱を片付ける。教室に人影は少ない。教室の窓の外には桜がたくさん咲いていて、窓を開けていると薄紅の花びらがよく入ってくる。 やはり、物語の中のステージ、の、よう。 「……どうして、七月さんは私とお友達になりたいなんて言うの?」 「あなたのことが好きだからよ。浪上望月さん。望月さんと呼ぼうかしら」 「……それはさすがにやめてね」
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