卑しい赤い花が咲きました。

10/61
前へ
/170ページ
次へ
「あなたにぴったりな名前だと思うのだけど。教会ではなんと呼ばれてたの?」 首にぶら下がる、ちいさな十字架がずしりと重たくなったような気がした。教会のシスターからは三日に一度、手紙が来る。体調はどうかしら、ご飯は食べてるかしら、お友達はできましたか、お勉強の方は?一度も、返信は送れていない。今朝届いた手紙は短く、一行だけだった。このちいさな十字架を添えて。 プレーヌ、天の父は、見ていますよ。 糾弾だと、思った。 「……プレーヌ」 「外国語?」 「そう。フランス語で、満月。シスターはフランスから来た人だから」 「プレーヌ。ふふ、あなた、そう呼ばれると、物語の登場人物みたいね?」 「……本当にね」 パンをひとつ、鞄の中に仕舞う。これは晩御飯にしてしまおう。適当なご飯を食べてばかりだからか、体重が一週間で三キロ落ちた。シスター、シスター、ごめんなさい。あなたが懸命に育て上げたからだを、乱雑に扱っています。シスター、シスター、ごめんなさい。 「ねぇ、浪上さんは、部活動どうするの?」 「どうしようかな。適当に入れる部活動を探すわ」 「なら美術部じゃ、駄目かしら。あたし、美術部だし、美術部の人たち、いい人ばかりだから。ねぇ、だめ?」 「……うーん」 「今日の放課後、一緒に行きましょうよ。あなたの心配していることは起こらないわよ。面倒なことだって。ね」 「……うん。じゃあ、行ってみる」 花が咲いたような笑みを見せる彼女を、冷めた目で眺めている私のことも、きっと天の父は見ている。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加