10人が本棚に入れています
本棚に追加
「あなたにぴったりな名前だと思うのだけど。教会ではなんと呼ばれてたの?」
首にぶら下がる、ちいさな十字架がずしりと重たくなったような気がした。教会のシスターからは三日に一度、手紙が来る。体調はどうかしら、ご飯は食べてるかしら、お友達はできましたか、お勉強の方は?一度も、返信は送れていない。今朝届いた手紙は短く、一行だけだった。このちいさな十字架を添えて。
プレーヌ、天の父は、見ていますよ。
糾弾だと、思った。
「……プレーヌ」
「外国語?」
「そう。フランス語で、満月。シスターはフランスから来た人だから」
「プレーヌ。ふふ、あなた、そう呼ばれると、物語の登場人物みたいね?」
「……本当にね」
パンをひとつ、鞄の中に仕舞う。これは晩御飯にしてしまおう。適当なご飯を食べてばかりだからか、体重が一週間で三キロ落ちた。シスター、シスター、ごめんなさい。あなたが懸命に育て上げたからだを、乱雑に扱っています。シスター、シスター、ごめんなさい。
「ねぇ、浪上さんは、部活動どうするの?」
「どうしようかな。適当に入れる部活動を探すわ」
「なら美術部じゃ、駄目かしら。あたし、美術部だし、美術部の人たち、いい人ばかりだから。ねぇ、だめ?」
「……うーん」
「今日の放課後、一緒に行きましょうよ。あなたの心配していることは起こらないわよ。面倒なことだって。ね」
「……うん。じゃあ、行ってみる」
花が咲いたような笑みを見せる彼女を、冷めた目で眺めている私のことも、きっと天の父は見ている。
最初のコメントを投稿しよう!