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「浪上望月ね。ようこそ、美術部へ。部長の諏訪原」
大きな黒縁メガネをかけた美術部部長は私を見てにこりとも笑わずにそう言った。ビリジアンの絵の具をパレットに捻り出すその白い手は絵の具まみれであった。
「こんにちは。あの、入るか入らないかは決めてないんですけど」
「別にいいよ」
乱雑に切られた黒髪を揺らして、部長は私をじっと見つめる。
「……うん。別に大丈夫だよ。絵が苦手でも構わない。絵を描かなくても構わない。君、君か。君が浪上望月だね」
「……ええ、はい」
「ん、だったらウチが適任だ。君はどこに行っても厄介者扱いされるだろうけど、ウチは幽霊部員から芸術狂いまで取り揃えている。かんばせがうつくしい程度、内包出来る。ようこそ、浪上望月。どうぞ、あちらの椅子にでも腰掛けて。紅茶はご自由に」
つらつらと言い放つと、部長は筆を片手にカンバスに向き合う。もう用事はないよ、と言わんばかりの背中に困惑する。七月さんは、と辺りを見ると彼女ももうカンバスに向き合っていた。困惑する私を見ると、うふふ、と、あの、芝居がかった笑み。
「浪上さん、どうぞお座りになって。紅茶はあちら」
「……うん、わかった」
白地に青の薔薇の模様の入った陶器のティーセットに向かう。電気ポットからお湯をもらって、適当にティーパックを入れる。電気ポットだけ、やたらと現代的で、時の淀んでいるようなこの学校の異質だと思った。
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