きっと月はどこかの向こう。

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「きっとあの男子はわたしの顔に、ああ、女らしさなどというものを見つけたのでしょうよ!なんて汚らわしい!ああ、ああ、にいさん、察するところによりますとですけどね、彼はわたしと性行為に勤しみたいのだと思いますよ!」 「まぁまぁおぼろ、少し落ち着きなさい」 かちち、と兄がガスコンロに火を付けます。チロ、と上目遣い。うつくしき、顔。わたしとうり二つ。つまりわたしの顔もうつくしいのでしょうか。 いや。 女、だから。厭らしい、のです。 「にいさん、」 「あとは煮込むだけだから、おぼろ、休憩しよう」 「……はい」 従順。兄だけには、従順だと、よく言われます。こんな育ちですので捻くれた性格になりましたが、兄だけには従順なのです。庇護されてるからなのか、わたしの知る唯一の肉親だからか、そう、もしかしたら兄の顔がうつくしいから。 ふふ、と笑ったら、兄も、ふふ、と笑いました。 「にいさんは、かあさんに会ったことはあるのですか?」 「一度だけあるよ」 頬杖をついて、兄は答えました。 「すごくよく覚えてる。『最初のあたしの子ども、元気?』って言った。綺麗な人だった。女神みたいだった。派手な服装はしてなかったよ。薄青の、ワンピース。腕には」 すっ、と兄はわたしを指さしました。 「おぼろを、抱いていた」 「……繊月、あなたが一番最初の子どもなのですか」 「うん、長男」 ちょうなん、と口の中で繰り返してみました。兄とわたしの二人の世界に慣れすぎて、長男だとかはあまり実感が沸かなくて、すこぅしだけ、何故だか笑えました。 「そして、おぼろが、最後の子ども」 「……わたしが?」 「うん」 「……」 「……」 「……ふふ」 「……ふふ」
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