卑しい赤い花が咲きました。

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薄暗い道を一人で歩いていると、こころがなんだかしんしんと痛んだ。足元には無数の桜の花びら。踏み潰されて無残の一言であった。かがみ込んで、ローアングルの写真を一枚。まるで、裏切りのような花びらたちだったので。 SNSに上げよう、と指を動かす。何故私は顔も声も名前も知らない人たちしかいない世界に画像や、文字列を流すのだろう。愚かなこと。 『裏切った人へ。わたしの教えた花の名前を思い出したら、許してあげます。』 母は、私が教えた、花の名前を覚えているのだろうか。          * 美術部部室には、無数のロイヤルブルーの薄い本の並ぶ本棚がある。極新しいものから、色あせ、格調高くうつくしきブルーの残骸としかなっていないものまで。先輩たちの日記帳であった。 私がそのちいさな棚を見つけたのは、美術部に入部してから五日経った、雨の日だった。湿度が高いせいで絵の具の臭いはむっと漂っていた。今日は雨だから、と誰も絵筆を握らずに、カンバスに布を張って、タックスを打ち込んでいた。 雨の日とか湿度の高い日にカンバスを貼ったらシワが寄らないの、これはタックス、ここからここが張りしろで、と七月さんが緩やかな口調で教えてくれた。布を引っ張るのを手伝ってしゃがみこんでいると、視界のすみに青色がうつったのだ。 「……七月さん、あれ、なにかしら」 「え?ちょっとお待ちになって、これまで留めてしまうから」 たんたん、とタックスが打ち込まれる。普段は下ろしている薄茶の髪を一つに括った彼女は、普段より活発に笑う。
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