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「なんだかんだで浪上さんもこの部に慣れてきたのかしら」
「そうかしら。別に、ここは、嫌いじゃあないから」
美術部の部員は私を入れて二十三人だった。意外と多いな、と思ったら、半分は幽霊部員だからね、と部長が教えてくれた。確かに、部室には七、八人くらいしかいないように思う。いつもいるのが部長と数人の先輩と七月さんと、不思議なことに、私。あとは入れ替わり立ち替わり、来たり来なかったり。
挨拶すらおざなりに、点在するカンバスに向かって息を潜めるように絵の具を塗りつける。粘土をいじっているのを見たこともあるし、クロッキーをひたすらしているのを見たこともある。アドバイスをちょうだい、と隣の人に話しかけることもある。緩やかな国交のある島国たちのようで。カンバス一つに、国民が一人。女王様が一人。
「そう?割りと、無理矢理入れてしまったかもって思ってたから嬉しいわ。安心した」
「いやだったら、いやって言うもの、私は」
「ふふ、それなら良いんだけど。はい、終わり。それで、なぁに?」
あそこ、と私が普段座っている机の奥を指さした。同じようにかがみ込んだ七月さんは、私の指さす方を目を細めて見つめる。と、するりと意外な素早さで机の下に潜り込む。
「あら、本だわ。日記帳」
よいしょ、と重たいものを引きずる音がした。制服をところどころ白く汚した七月さんは、得意気に笑った。
「これでしょう」
「そうだけど……ちょっと、汚れてるわよ。立って」
ぱたぱたと七月さんの制服を払っていると、三つ目のカンバスを仕上げた部長が寄ってきた。本来ならば机や棚の上に置かれるのだろうちいさな本棚には、無数のロイヤルブルー。一番色の褪せたそれを取り上げて、部長は珍しく、笑った。
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