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「おや、こんなところに有ったのか。しかも浪上望月、君が見付けるとはね」
「あの、部長、これはなんですか?」
「過去の住人たちの日々の記録」
ぱらぱらと部長が日記帳をめくる。ホコリが舞い上がる。部長が指さす日付けを見ると、大正三年四月一日、と書いてあった。
「これはきっと初代部長のものだね。美術部部室のどこかに、日記帳が置いてあるというのは聞いていたけど、まさかあんなところにあるとは」
ふふ、と部長が楽しそうに笑う。部長が笑うのを見るのは初めてかもしれなかった。なんだかどぎまぎした。乱雑な髪、大きな黒縁眼鏡、いつもは静かに引き結ばれている唇が、赤く艶めいて見えた、ので。
「部長……」
「これは良い発見だよ、浪上望月、バーンズ・七月。ありがとう。おそらく先代の部長の分もあるだろう……。そう、先代はね、見つけたんだよ。でも、わたしには教えてくれなかったものだから。わたしの日記帳もそこよ、なんて言って、本当に卑怯な人だった……」
ふふ。最低限の吐息だけの笑い声。そわ、と首筋が粟立つ。
「さあ、作業に戻ろう。この日記帳たちはそこの、棚の上に。そう、ありがとう」
私と七月さんは黙って日記帳を部長の指示通りに画材が置いてある棚の上に置いた。ロイヤルブルーの残骸。埃まみれのくせして、その色は凜としていた。私と七月さんはすぐにまた、カンバスを作り始めた。
その日からずっと、私は少しずつ少しずつ日記帳を読み続けている。
「浪上さん、そんなもの読んで、良い趣味をなさってるのね?」
「……まぁね」
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