卑しい赤い花が咲きました。

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          * 「さつき祭の話しなんだけどね」 唯一画材の乗っていない綺麗な机にもたれて、部長は薄っぺらなファイルを持って話し出す。珍しく美術部部室は満員で、比較的よく顔を見るな、という先輩たちが勢揃いしていた。私はいつもの席で、カンバスの島の女王様たちのよく光る目を見ている。 芸術をしている人は、目がよく光るように思う。 たん、と部長の長い指が机を叩く。 「えーと、まぁ、例年通りポストカード作成かな、と思う。個人的に文芸部の部長と仲良いんだけど、そしたらしおりでも作ったらどうかしらーって。毎年ポストカード以外にもなにかしている訳だし、今年はそれでどうかなと」 五月初旬。さすがに桜はすべて散ってしまった。薄いみどりの影が、私の黒い影の周りを彩っている。 六月中旬。『さつき祭』と呼ばれる我が校の文化祭がある。舞台発表、販売、展示、それなりに盛況になるらしく、まとまりのない美術部も、今回ばかりはきちんと部として働かねばならないという訳だ。 「あと、作品展示ね。一年生は、完成したらでいいよ。作品が多いに越したことはないから、出来ればよろしく」 大丈夫?と部長が確認の意味を込めて私たちに聞く。私は無関心を装って、踊るみどりの影を眺めている。はい、と不揃いで物静かな声がした。先輩たちはわらわらと集まって、なんだかんだと話し合う。価格、サイズ、作り方、作品展示の場所、販売場所。飛び交う数字の群れ。私はみどりの影を眺める。 「浪上さん」 「……なぁに、七月さん」 「そんな隅でぼんやりしていて、あなた、楽しいのかしら」
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