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「そっか、ちゃんと神様をお迎えできるといいね」
僕は罪悪感を胸の内に押し隠して微笑んだ。
しかし少女は僕の言葉にきょとんとした。
「あなたも神さまをお迎えにきたんじゃないの?」
「違うよ」
「でも、村でいじめられているんでしょう?」
さすがに僕も怒った。子供だからと流せることではない。
「なんてことを言うんだい? そんなことあるはずないだろう」
「でも、あなたの目は黒いわ」
「君の目もそうだろう?」
「うん、でもほかの人はちがう。もっときらきらしている」
はっしと少女は濁った瞳で僕を見つめた。
「あなたの目には光りがない。私と一緒」
絶句した。二の句が継げなかった。
僕の目が君のような、死んだような目だというのか? 僕という存在が君のように、居場所を見つけられていないとでもいうのか!?
…………ああ、でもそうなのかもしれない。
僕が死んでも悲しむものはいない。僕が死んでも困るものはいない。むしろ、食い扶持が減ったと村の者たちは喜ぶのではないだろうか。
――そうか、結局、僕とこの子に違いなどないのか。
……どうして僕はこんな世にこだわっていたのだろうか。どうしてすべては無常なりと知りながら、生きることを望んでいたのだろうか。
ああ、分からない。分からない。
「あなたも、わたしと一緒に神さまをお迎えしよう?」
ああ、それもいいかもしれない。この子と一緒に最期を迎えようか。
「神さまのお宮は大きくて、いつもあたたかくて、着るものも食べるものもいっぱいあるんだって」
そうだな。今の世では天皇様とてそんないいお屋敷には暮らしていないに違いない。
「それでね、神さまをきちんとお迎えできるとそのお宮にまねいてくれるんだって」
心の広い神様だな。それはきっと彼女の理想の世界なのだろう。
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