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朝の散歩がてら、ある家の前を通りかかった猫の耳に聞こえてきた怒鳴り声。
瞬間、ピタリと動きを止めて家の様子を伺う。
ニャンだ?
気になった猫は素早い身のこなしで家の裏手に回り、ハゲ親父と火星人が睨み合う現場に出くわす。
「この浮気者!
何よ、私という女がありながら他の女を作ったりして!」
女、と思われる火星人が、体をクネクネさせ、長い触手をぶん回しながら怒りの声を上げる。
「うるさい!
ちょっと他の女と会ってたくらいでヒステリーになりおって!
大体お前はわしを信用しておらんのだ!」
このハゲ親父、怒るたびに顔が真っ赤に染まってゆき、その様はゆでダコそのもの。
「私へのあてつけよ!
何よ何よ、あんな頭がとんがったイカ女に色目使って!
愛してるのは私だけとか調子いいこと言っといて……く、悔しー!」
火星人、触手でハゲ親父を往復ビンタ。
「痛い痛い、やめんか!
お前のそんなところが本当にうんざりなんだよ、わしのコトを四六時中束縛しおって……息がつまるんだ!
わしだってたまにはフリーダムしたいんだ!
ヌルヌルよりもスベスベとスパーキングしたいんだ!」
ありゃありゃ、それでは火に油だニャー。
「あんたやっぱり……こ、今畜生め……そういうつもりなら私にも考えがあるわ。
不倫してやる……個性が愛くるしいと専ら評判の松ぼっくり星人といけない仲になってやる!」
「な、何を……このタコ、言わせておけばァ……」
「タコは自分じゃないの、いい年こいて万年平社員のタコ親父!」
「ろくに仕事もせんお前に言われたくないわ!」
取っ組み合いを横目に、いそいそと足早に去る猫。
地球が銀河連盟に加盟して十数年、地球人と異星人同士の結婚も珍しくなくなった今日この頃だが、男女の諍いは変わらぬようで……
俺は気楽な猫のままで十分だニャ。
誇らしく尻尾をピンと立ち上げながら、猫は去る。
夫婦ゲンカを後にして……
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