①シノザワ ソウスケ

8/10
前へ
/10ページ
次へ
正面に捉えただけでは足らなくて、ソファーの背もたれに手をついてその中に彼女を閉じ込める。こんな行動に出るなんて思いもよらず。自分でも不思議だ。 僕の態度に驚いたらしい彼女が居心地悪そうに身動ぐ。 「僕がさっき何をしていたかって聞きましたね」 見え透いた嘘をつくサラシナココロには、軽薄な嘘を。 「あなたと同じことをしようとしていたんです。覚えているでしょう、先週末、あなたがしようとしていたことですよ」 赤の他人に絶望的な表情を見せる彼女は、僕の影の中でまっすぐに言葉を受け止める。 そんなだから繰り返すんだ。どうして気付かないんだ。 僕が騒音に苛ついている間、騒ぎの最中に君は一度だって部屋を出なかった。 いつもいつも、静かになったあとのバルコニーで体を丸めて泣いている癖に。 ああ、僕は本当に、 「でもタイミングを失ってしまった。あなたのせいですよ?」 この子を、この、何にも知らない赤の他人のお隣さんを追い詰めたくて仕方ない。 なのに、 「織田さん」 泣かない。それどころかサラシナココロは僕を見上げて微笑む。 「助けてくれてありがとう」 「は?」 「織田さんて優しいんですね」 突拍子のない言葉の連投に答えあぐねる。 「あたしの名前、どうして知ってるんですか?」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加