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正面に捉えただけでは足らなくて、ソファーの背もたれに手をついてその中に彼女を閉じ込める。こんな行動に出るなんて思いもよらず。自分でも不思議だ。
僕の態度に驚いたらしい彼女が居心地悪そうに身動ぐ。
「僕がさっき何をしていたかって聞きましたね」
見え透いた嘘をつくサラシナココロには、軽薄な嘘を。
「あなたと同じことをしようとしていたんです。覚えているでしょう、先週末、あなたがしようとしていたことですよ」
赤の他人に絶望的な表情を見せる彼女は、僕の影の中でまっすぐに言葉を受け止める。
そんなだから繰り返すんだ。どうして気付かないんだ。
僕が騒音に苛ついている間、騒ぎの最中に君は一度だって部屋を出なかった。
いつもいつも、静かになったあとのバルコニーで体を丸めて泣いている癖に。
ああ、僕は本当に、
「でもタイミングを失ってしまった。あなたのせいですよ?」
この子を、この、何にも知らない赤の他人のお隣さんを追い詰めたくて仕方ない。
なのに、
「織田さん」
泣かない。それどころかサラシナココロは僕を見上げて微笑む。
「助けてくれてありがとう」
「は?」
「織田さんて優しいんですね」
突拍子のない言葉の連投に答えあぐねる。
「あたしの名前、どうして知ってるんですか?」
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