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プロローグ:扉をひらいて
一学期の期末試験は全て終了。手応えはまぁまぁ。あとは夏休みを待つばかり。
そんな緊張感から開放されたような昼休み。持参の弁当を食べ終えてペットボトルの緑茶を勢い良く流し込む。
顔中から噴き出す大量の汗をタオルで拭い、机の中から団扇を取り出して扇ぐ。
俺、西山 拓朗はどこにでもいるような高校二年生。
成績と身長は中の上、ルックスも多分中の上。何かに秀でてもいないし、何か熱中するモノも見当たらないので。どこの部活動にも所属していない。
他人と積極的に交流するタイプでもないので、このクラスではボッチ系オタクの部類だと思われているかも知れない。
「タクロー、ちょっといい?」
教室に入って来た女の子が俺の隣の空席に座る。彼女は澤ちゃん。澤 美玲。
一年の時に同じクラスだった女の子で、入学して最初の席替えで隣同士になってからの仲だ。
澤ちゃんは背が低く、どこかプニプニした感じで人懐っこい仔犬みたいな奴。
肩の上くらいで揃えている茶色がかったボブヘアが似合う可愛らしい女の子なので、話し掛けられても悪い気はしないが。
二年になって別のクラスになったって言うのに、たまにこうして俺の元を訪ねて来る。
どうせまた文芸部絡みの雑用でも押し付けに来たのだろう。
「…… なんだよ」
団扇で顔を扇ぎながら澤ちゃんを睨む。
「放課後、文芸部に集合ね」
ホラ来た。
俺は文芸部に入部した憶えはない。と言うか俺に文章など書けない。
なにしろ小学校の時から作文だの読書感想文などの類は苦手なほうだった。
あの茶色い点線枠の原稿用紙を見続けていると吐き気さえもよおすくらいだ。
文芸部には男子部員もいるはずなのに。澤ちゃんがなぜ俺にばかり用事を持ち込んで来るのか、その理由はわからないが。
でもそんな文芸部の雑用を押し付けられても俺は悪い気はしない。それは悪くないルックスの澤ちゃんからのお願いであるだけではない。
「そんなことだろうと思ったよ」
「でしょ?んじゃ、放課後部室でね」
それだけ言うと澤ちゃんは席から立ち上がる。
「ソッコー来いよ。遅れるなよ」
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