第1章 猫のいる自転車屋さん

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柔らかな感触と、ガタンという振動――。 エミはため息をつきながら、自転車を降りた。 この町に引っ越してきて、これで3度目のパンクだった。 エミが転校してきて、3ヶ月が過ぎようとしていた。 エミは学校が終わると、ランドセルを家に放り出し、町中を自転車で走り回った。 友達も作ることなく、たった一人で、 放課後から夜暗くなるまで、ひたすら自転車で走り回った。 自分の住む町の探索を終えると、次は隣の町へと、行動範囲を広げていった。 まだ小学5年生ということもあり、何度か補導されかけたこともあった。 母親から注意も受けた。それでもエミは、自転車を乗り回すことを止めなかった。 交通量の多い大通りから、細い路地を抜けるといつもの自転車屋があった。 エミの自宅からも近く、最近、何度も通った道だった。 細い路地には、数匹の野良猫がたむろしている。 その中に一匹、首輪をつけた猫がいる。 タローだ。 ニャアと、エミに挨拶をすると、エミの前を先導するように歩き始める。 エミが最初にこの店に来たときも、タローが案内してくれた。
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