文鳥さんは猫耳になった

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文鳥さんは猫耳になった

 僕のご主人さまは女のひとだ。  百円均一で買ってきたレインボーのピルケースの中に、一週間分の薬を選り分けているのを見ると、どうにか今週も彼女は生きていくのだなと思う。  僕のご主人さまは暗いところが好きだ。  真っ暗な部屋で僕の温もりさえ拒絶して、携帯のスピーカーから流れるランダム再生のオルタナティヴを聴いているのを見ると、そろそろ彼女も息を吹き返すころだなと思う。  僕のご主人さまはかわいいものが好きだ。  部屋中にびっしりと貼られたアニメや漫画のポスターを真剣な表情で見回して、新規のコレクションをどこに挿入しようかと悩んでいるのを見ると、しばらくは大丈夫そうだと思う。  僕のご主人さまは会社勤めをしている。  金曜日の仕事終わりに、最近お気に入りのコーラのトロピカルバージョンみたいな缶ジュースを買ってきて、録画しておいたコント番組に笑いをこらえているのを見ると、明日はゆっくり休んで欲しいと思う。  僕のご主人さまにはカフェインが欠かせない。  土曜日の朝、コーヒーを流し入れてからシャワーを浴び、四週間の出来事や悩み事を書き出しているのを見ると、いっそ特休でももらって、平日の午後に病院に行った方が楽だろうにと思う。  僕のご主人さまはあまり体力がない。  日曜日の夕方、日が落ちかけてからぼさぼさの頭にくしを入れ、申し訳程度の着替えをし、クリーニングのついでにスーパーに出かけるのを見ると、週休三日制がもっとたくさんの会社に取り入れられるといいと思う。  僕のご主人さまは文章を書くのが好きだ。  月曜の夜、夕飯もそこそこに済ませ、まだ21時にもなっていないのに、布団に入って日記を書いているのを見ると、眠るためだけに使わなければいけない二時間が、時計の文字盤に加わればいいのにと思う。
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