文鳥さんは猫耳になった

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 僕のご主人さまは僕のなきがらを抱いてくれた。  五年前、まだ鳥だった僕がこの部屋に招かれたとき、彼女は別の会社に勤めていて、帰りは今よりも遅かった。  その頃の仕事は今とちがって、個人の営業成績が重視される仕事のようだった。  くたくたで帰ってきたはずなのに、疲れを知らないように本を読み続け、一日ごとの重点販売商品の売上数と読了した本の冊数をグラフに積み重ねていく彼女は、どこか無理のある微笑みに満ちているように見えた。  彼女自身、あまり気に入っていない恋人と付き合っていたが、最後まで部屋に連れてくることはなかった。  壁中びっしりのアニメのポスターを見せたくなかったのかもしれない。  恋人と会う日、彼女は仕事がある日よりくたくたで、交際の全部が億劫そうで、いら立っていた。  とても好きな人に会いに行くようには見えなかったし、夜明けになって帰ってきたときは、ようやく開放されたという顔をしていた。  そういうことが半年ほど続いて、彼女はぷつんと糸が切れた。  冷たい秋雨の、月曜の夜のことだった。  仕事が長引いて、普段より遅く帰ってきた彼女は、僕のご飯も換えてやれずに、スーツ姿のまま倒れてしまった。  呼吸が荒く、全身がこわばり、けいれんしているように見えた。  お腹や背中にはギリギリと音が出そうなくらい力が入っていたのに、携帯で救急車を呼ぶこともできないほど、手足の先は脱力していた。  うめき声は言葉にならず、静かな部屋に吸収されるだけだった。  玄関に鍵をかける余裕がなかったのがさいわいした。  足音を聞いて芋煮のおすそわけに来たお隣さんが、インターホンの返事がないのと、ご主人さまの必死のノック音に気づき、恐る恐る玄関を開け、彼女を発見してくれた。  救急搬送された彼女は、なにも異常がありませんと言われた。  疲労のせいでしょうとしか言ってもらえなかった。  病院にしてみたら、どちらかといえば119番よりも保健室に行ってもらいたい、迷惑な急患らしかった。
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