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気持ちを落ち着ける薬が増え、彼女は仕事に行けなくなり、年が明けてから退社した。
彼氏さんとはいつの間にか自然消滅していた。
あれだけ熱を上げていた読書を放り投げ、彼女にはテレビゲームと漫画くらいしかなくなってしまった。
光がまぶしく、外の音がわずらわしく、アニメや映画を観るのは疲れるようだった。
平日の日中は、もの静かで冷静な株価の番組を見るようになった。
過換気の症候群という怪物は、何度も彼女のところへやってきた。
本屋に行って帰ってきただけで倒れてしまい、結局二度もお隣さんと救急隊員にフィギュアコレクションを見られることになった。
彼女の母親がやってきて、やたらと心配そうに世話を焼いた。
彼女は母親から優しくされるのに慣れていなかった。
彼女の繊細な神経は、狭いアパートの一室で母親と過ごすことに耐えられず、すぐに母親は田舎に引っこむことになった。
その冬のバタバタした時期に、彼女は部屋の間接照明の電源といっしょに僕の保温電球のコンセントを抜いてしまい、凍えるような夜が明けると、僕はもうご飯が食べられないほど衰弱していた。
さえずる気にならないくらい、前から調子が悪かったのは確かだったけれど、春くらいまでは彼女を見守っていられるだろうと思っていた。
最後のけいれんを残して旅立っていく僕を手のひらに乗せて、彼女はごめんね、ごめんね、わたしのせいだよねと涙を流した。
寒かったよね、もっとたくさんご飯食べたかったよねとむせび泣いた。
ルッちゃん大好きだよ、大好きだったよ、ずっと大好きだよ。
かわいいかわいいルッちゃんじゃなくて、なんにもない、なんにもできないわたしが死んじゃえばよかったのに。
ペットショップで成鳥になった僕は、ひとに触られるのがきらいだった。
彼女も文鳥さんを飼うのが初めてだったから、僕の爪を切るのに慣れていなかった。
さんざん追いかけっこをして、爪を切りすぎて、僕を痛い目にあわせたこともあった。
でも、ご飯が変わって食欲が湧かなかったときは、すぐに気がついて元のご飯に戻してくれた。
臆病な僕を驚かせないように、食事や水浴びのときはケージに近寄らなかった。
それだけで充分だったかは僕にも分からない。
ただ、僕がいなくなる悲しみだけは、彼女と共有できないことをひどく悲しいと思った。
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