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「そうだったのね・・
うちの母ね、今記憶が無いの。
父が母に離婚を迫ったせいだって言ってた。
でも違うと思う・・
母は戻りたかったんだと思うわ。
父と結婚する前に、父が幸彦のお母さんに出会う前に、そして母が父に秘密を持つ前に」
繭は黙ってメイ見つめた。
この娘も決して幸せだった訳じや無いのだ・・そう思った。
「私ね・・結婚するの・・
相手はね、私より7歳も上の冴えないおじさん・・
父の秘書を15年もして、今度政界に出馬するのよ。
長崎の県議の二男でね、婿養子に来てくれるの・・
初めてうちに来た頃から私が好きだったって・・
これでも男にはモテたのよ。
でも誰も愛せなかったけど」
「繭さん・・
貴女まだでしよ?」
「やっぱり、分かる?」
「うん、何となく」
「私ね、幸彦さんに拒まれた時思ったの・・
好きな男と結婚するから辛いんだ。
私を好きな男なら、他の女に取られたりしないって」
メイも繭を見つめる。
(この人も辛かったのね・・
私には幸彦がいたけど)
「でも、男って、まめな人ほど浮気するって言うわよ」
メイは悪戯っぽく繭に返す。
「大丈夫よ、そんな事しようものなら、家から追い出して、二度と政界に出られないようにしてやるから」
繭は笑いながらメイに言葉を返した。
風呂場の扉が開いた。
「あれ、メイさん、来とったとね・・」
「はい、あっ、さっきはイイダコ、ありがとうございます。
幸哉が大好きで・・」
「そうやってね、玄じいが幸坊にって、まだ味が染みとらんのに持って行ったとよ・・
大丈夫やった?」
「ええ、とても美味しかったですよ」
「そうね良かった」
「今夜は遅いんやね」
「うん、さっき迄、宮ちゃんの旦那と玄じいが来て、酒のつまみを作らされてたん・・
宮ちゃんが作ったけどもう無いいうて」
「そうやったんだ、ご苦労さま」
「お陰で幸ちゃんに会えたけん、良かったわ」
「私達、もう出るけん、ゆっくり入ってね」
メイが幸哉を抱いて繭を見た。
「長湯やったね。
のぼせたわ・・
帰ろ・・」
繭は笑いながらメイを見る。
しっかり島の人なのだと思った。
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